ガンの3大療法(手術・抗ガン剤・放射線)に頼り切りでは、かえって、自分の命を縮めかねないと不安や悩みを持っているがん患者は少なくありません。そこで今、注目されている免疫療法(免疫細胞療法)があります。
免疫療法とは、すでに発病したガンを抑え込むためにマクロファージや、NK細胞などの働きを強化する、ガンの3大療法に次ぐ「第4の柱」と呼ばれています。3大療法にと併用して、より効果が期待されている治療法です。
免疫とは何か
免疫とは何か、読んで字のごとく「疫」病気とか流行病といったものから、「免」まぬがれるという意味であり、初めから免疫は体に備わっています。
生き物は、免疫があるから生きられるのです。免疫が働かなければ腐敗菌やカビが繁殖してしまい腐ったり、カビが生えたりします。動物が生きている限り、免疫は働きます。
免疫はどうして病気を防いでいるのか?
体にとって害があるかどうかを判断し、害があるものだけを排除しているのでしょうか?そうではないようです。
千葉大学大学院医学研究院免疫発生学の
中山俊憲教授によれば、実際には、病原性があるから排除して、病原性がないから排除しないのではないのです。
免疫が判断しているのは、それが『自己』か、あるいは『非自己』かということです。体の中にある『非自己』、つまり
自分でないものを見つけ出し、それを排除するのが免疫の役割だといいます。
病気を引き起こすかどうかはわからなくても、『非自己』と分かればとにかく攻撃し、排除しようとする。この方法で人間は何万年も生きて来れたのです。
唯一の例外は、赤ちゃんを妊娠したときだといいます。赤ちゃんのDNAの半分は父親からきたものなので、母体からすれば明らかに『非自己』です。それでも母親の免疫が胎児を攻撃したりすることはありません。
このような例外を除けば、免疫には『非自己』を徹底して排除しようとする働きがあり、それによって動物は病気から守られている。病原性があろうがなかろうが、『非自己』なら排除するという働きは、自然界を生き抜くためには欠かせないのです。
しかし、臓器移植を行うときには、困った事態を引き起こします。移植される臓器は、病気を引き起こしたりしないのですが、『非自己』なので、免疫の攻撃対象になってしまうのです。臓器を移植した時に起きる拒絶反応は、免疫のこうした働きによって引き起こされるのだといいます。
がんの免疫療法
がんの免疫療法も、『非自己』を排除しようとする免疫の働きを利用しています。がん細胞は、正常細胞が突然変異を起こして体の中で生まれて来たものですが、これは『非自己』になります。
したがって、免疫の攻撃対象となります。この攻撃力を利用してがんの治療を行うのが、がんの免疫療法ということになります。こちらの
体質改善のための免疫力アップも参考になれます。
がん細胞を排除する細胞
がんの発症にも関わっている免疫ですが、がん細胞を攻撃する免疫細胞には、次のような種類があります。
マクロファージ
組織の中を移動しながら、異物(=非自己)を食べていきます。傷ついたがん細
胞やがん細胞の死骸を主に食べます。
キラーT細胞
リンパ球の一種で、攻撃力がとても強いです。がん抗原を認識し、対象を絞り込
んで攻撃します。
B細胞
抗体を作る機能を持ったリンパ球です。がん抗原に特異的な抗体を作り、それを
放出します。
NK細胞
常に体内をパトロールし、がん細胞を発見し、殺傷する働きを持っています。
NKT細胞
NK細胞とT細胞の両方の性質を持っています。NK細胞と同様、体内をパトロール
し、がん細胞を見つけると殺す働きをします。
これらの免疫細胞のうち、体内で毎日できるがん細胞を見つけ出し、それが増えないうちに排除しているのは、パトロール役を担っているNK細胞やNKT細胞だといいます。
がんになってしまった人は、体内で誕生したがん細胞の力に比べ、NK細胞やNKT細胞といった免疫細胞の力が、相対的に弱かったということになります。
老化などで免疫の力が落ちている場合や、遺伝子に傷がついてがん細胞が生まれやすくなっている場合は、がん細胞の力に比べ免疫細胞の力のほうが弱くなり、がんという病気を発症することになるのです。
がんに強いキラーT細胞
体内にがん細胞ができたとき、まず働くのはNK細胞やNKT細胞ですが、これらの免疫細胞の働きには限度があるといいます。
がん細胞がいくつか集まったくらいでは、まだがん組織になっていないので、NK細胞やNKT細胞が、がんを見つけ出し殺してしまいます。
ところが、その段階を生き延びて組織となったがんは、NK細胞とNKT細胞だけでは太刀打ちできません。免疫細胞を総動員して、システムとして機能することで、がんを攻撃します。
このシステム化された免疫の働きで、攻撃の中心を担っているのは、リンパ球の一種であるキラーT細胞です。この細胞の力は強力で、がん細胞に対する攻撃力は、NK細胞よりもかなり強いといいます。
もっとも、T細胞はもともと強い攻撃力を持っているわけではありません。抗原提示細胞と呼ばれる樹状細胞が、がん細胞を食べてリンパ節に行き、そのがん細胞の目印である抗原(がん細胞の表面に出ているタンパクの断片)を提示すると、それに反応してT細胞が活性化するわけです。
つまり、樹状細胞が敵を見つけるとT細胞に知らせることによって、キラーT細胞が活性化し、がん細胞への攻撃が始まるというわけです。
現在、がんの免疫療法として行われている治療の多くは、特異的ながん抗原でキラーT細胞を活性化し、それによってがんを攻撃しようというものです。
現在、メラノーマ(悪性黒色腫と呼ばれる黒色をした皮膚がんの一種)のがん抗原が最もよくわかっていて、免疫療法によってがんが小さくなったという症例も確認されています。このような治療は、総称して抗原特異的T細胞療法と呼んでいます。
がん抗原を皮膚に注射し、そこで樹状細胞に取り込ませる方法や、樹状細胞にがん抗原をまぶして注射する方法などがあるといいます。
免疫療法にも限界あり!
がんの免疫療法の研究は、日々進んでおり、がん患者の中には、免疫療法に期待を寄せている人も多いと思われます。
しかし、中山俊憲教授によれば、免疫療法の研究をしてきた経験から、
現在の段階では、免疫療法には限界がある治療法だと言います。
たとえば、進行再発がんの場合、治療がうまくいって生存期間が半年延びるとか、1年延びるということがあったとしても、
免疫療法で進行期のがんが完全に治ってしまうことは希でしかありません。
治療を受けることで何が期待できるのか、それを医師からよく説明してもらい、しっかり理解することが大切です。治療を受ける前に、セカンドオピニオンを受けることもおすすめです。
免疫療法として、巷で行われている治療法には、実にいろいろなレベルがあるのも事実です。自分にとって、どの治療が適切なのか、慎重に検討してみることが大切です。
ただ、私たちの体は、もともと免疫の働きでがん細胞をやっつけているのですから、これを上手に治療に生かしていくことは、これからも考えていかなければなりません。
いくつかの免疫療法を併用するとか、免疫療法と放射線療法を併用するといった治療も可能性を秘めています。
免疫療法の研究は着実に進化しているいいますが、現段階では過大な期待はせず、良い面を活かすことにおいて利用することが得策と思われます。
免疫療法を行っている主な病院
東京女子医科大学東医療センター 東京都 03−3810−1111
白山通りクリニック 東京都 03−3630−3311
ビオセラクリニック 東京都 03−5919−1762
瀬田クリニック東京 東京都 03−5216−0086
瀬田クリニック札幌 北海道 0570−088−372
瀬田クリニック新横浜 神奈川県 0570−088−472
瀬田クリニック大阪 大阪府 0570−088−572
瀬田クリニック福岡 福岡県 0570−088−672